7th release

Kejime Collective

Kejime Collective

  1. Bow Wow (10:28)
  2. I Love You (7:26)
  3. On A Misty Night (5:04)
  4. Mog (11:07)
  5. Stablemates (9:45)
  6. How We Roll (19:26)

PERSONNEL

山田 玲

Akira Yamada

Drums

1992年鳥取県生まれ。アマチュアドラマーの父の影響により幼い頃から音楽に親しみ、高校卒業後上京する。小林茂文氏、猪俣猛氏、本田珠也氏、GeneJackson 氏に師事し18歳よりプロ活動を開始。2012年前田憲男(pf)トリオへの初参加を皮切りに、以降数多くのバンドに参加。2013年秋満義孝(pf)のバンドに参加し、2014年Florin Niculescu(vln)日本ツアーに参加。2016年大西順子(pf)トリオ加入。同年、東京国際フォーラムホールCで行われた「EASTMEETSWEST」にWill Lee(b)率いるハウスバンドとして参加 Chris Parker(ds)とのツインドラムを務める。多くの有名歌手のバックも努め、いま若手のホープと目されるドラマー。

渡辺 翔太

Shota Watanabe

Piano

1988年名古屋生まれ。4歳からピアノを始める。父渡辺のりおの影響で音楽に慣れ親しむ。15歳の頃にJAZZに興味を示し、2003年Donny Schwekendiek氏に師事。2004年から演奏活動を始める。2005年JazzFunkバンド『赤門』に加入。2009年からjazzに傾倒。2010年、noonの「Once upon the summertime」のRecordingに参加。2016年から井上銘Stereo Champに在籍し、二枚のアルバムをリリースまた同バンドにて東京ブルーノート、丸の内コットンクラブに出演を果たす。ものんくる「世界はここにしかないって上手に言って」に参加。2018年、自身初のリーダーアルバム「Awareness」を発表。続いて2019年2nd Album「Folky Talkie」をリリースし、柳楽光隆氏のJapanese Jazz in 2010sに選ばれる。現在、自身のtrioや多方面からのアーティストのサポートで東京、名古屋を中心に全国で活動中。

広瀬 未来

Miki Hirose

Trumpet・Compose

1984年神戸生まれ。甲南中学と同時にトランペットを始める。在学中より関西各地でプロ活動を開始し、2002年、中山正治ジャズ大賞、なにわ芸術祭新人奨励賞、受賞。2003年New Yorkに渡り、フリーランストランぺッターとして活動。ジャズを始めサルサ、ヒップホップ、ファンク、様々なジャンルのフィールドで活動し、全米、ヨーロッパのライブハウス、ジャズフェスティバルなどに出演する。自身のアルバムも2枚リリースし各方面から絶賛を受ける。NYの新進トランぺッターをフィーチャーするフェスティバル「FONT」に自己のクインテットで出演。2014年からは神戸に拠点を移す。2015年神戸市文化奨励賞を受賞するなど受賞歴多数。大阪音楽大学などで後進の指導やラジオ関西の番組パーソナリティーなど多岐に渡る活動を行っている。

古木 佳佑

Keisuke Furuki

Bass・e-Base

1990年神奈川県生まれ。歌手の母ピアニストの父の音楽一家に生まれ幼少の頃よりジャズやワールドミュージックに親しんで育つ。実家が経営していた飲食店で行われるセッションに参加するようになりコントラバスを山下弘治氏、ジャズピアノを飯沼五洋氏に師事。即興演奏に必要な音楽理論を独学で身につけ10代よりプロとしてのキャリアをスタートする。人それぞれの作曲や音楽性への深い理解力には定評がありジャズを中心としつつも様々なジャンルのミュージシャンからも信頼を集めている。これまでの共演者は大野俊三(Tp) 山口真文(sax) 大西順子(p) 辛島文雄(p) 奥平真吾(Dr) など多数。多くのバンドに参加し国内外を問わず精力的に活動。作編曲家としてアーティストやバンドへの楽曲提供など活動の幅を広げている。

高橋 知道

Tomomichi Takahashi

Tenor Sax・ss・fl

1981年広島県生まれ。高校と入学と同時にテナーサックスを始める。3年生のとき神戸で開かれるスチューデントジャズフェスティバルで個人賞としては最高のバークリー賞を受賞する。大阪音楽大学で土岐英史(AS)に師事。在学中からプロ活動を開始。日野皓正、渡辺貞夫、川嶋哲郎、越智順子など数々の著名人とセッションを重ねる。2003年門真ジャズコンテストですべての賞を総なめした。2007年~2008年まで渡米しNY現地で数々の超一流ミュージシャンとジャムセッションを重ねたほかNYのメディアにも何度か出演。した。2014年シカゴで開かれた、サックスメーカー主催のフェスで日本人として初めてファイナリストに選ばれ3位入賞を果たす。現在は自己のオリジナルバンドなど全国で活動する注目の若手サックスプレーヤー。

LINER NOTES

東京に足りないのはケジメ・コレクティヴだ

音楽評論家 中川ヨウ/Yo Nakagawa

 山田玲(あきら)というドラマーがいる。1992 年鳥取生まれ、まだ20代である。ドラマーにはトニー・ウィリアムスはじめ早熟の才能が多いが、彼もまたその一人だ。
 父君がアマチュア・ドラマーだったこともあってか、幼い頃からビートに対する感覚が抜き出ていたそうである。高校卒業後上京し、猪俣猛、本田珠也、ジーン・ジャクソンの各氏に師事。山田のドラミングのキレの良さは、「猪俣さんから受けた影響が大きいと思います」とご本人。18歳からプロとして活動を開始し、2012年前田憲男トリオに参加。大野俊三バンド、大西順子トリオなど名だたるグループの一員として腕を磨いた。
 筆者が「激しい曲も、バラードもいい、凄いタイム感をもったドラマーが出てきたな」と認識したのは、2017年頃だった。熊谷ヤスマサ・トリオ、菊地成孔dCprG、SK4と、気になるバンドの多くに山田の顔があった。

 南青山の老舗ジャズクラブとして長く人気を誇ってきたBODY&SOUL がレーベルを発足させる時、関 京子オーナーが次のように主旨を語った。
「店でライヴ・レコーディングをして、新たな、あるいは埋もれている才能に光を当てたい。私がジャズと生きてきた人生の集大成として、最後にやっておきたいことなの。だから、レーベル全てのアルバムに、ヨウさんがライナーノーツを書いて下さい」。その光栄な依頼に、私はその終わりがずっとずっと先になるよう祈りを込めて、ライナーを担当しようと腹を括ってお引き受けした。
 関オーナーのリストに山田玲の名前を見た時、さすが目利きだと思った。期待は大きく膨らんだが、レコーディングの時期にはコロナ禍が起きていた。店でのライヴ活動が制限される中、ボディは行政の規定に従いつつ、最善を尽くしてライヴを続ける方針をとった。
 そんな日々の中、山田玲の”Kejime Collective”のライヴ・レコーディングが敢行されたのだった。素晴らしかった。そして、楽しかった!
彼が考えるジャズ・ライヴの楽しさが(聴衆/メンバー、全ての人が楽しめる)横溢するバンドであり、ライヴだった。2管を擁するジャズの伝統に則った編成が、いい。山田の作曲が面白い。メンバーそれぞれが素晴らしい演奏力をもち、個性が際立っている。関西、名古屋を拠点にしているメンバーも在籍しているが、全国区間近かという実力者揃いである。それをまとめるのが最年少の山田である点にも、着目したい。
 ドラマーの初リーダー作なのに「自分が目立ちたい」というところがなく、サウンドに献身していく山田に、底力を感じたりもしたのだった。

 アルバムを手にしておられる方々が本稿を読んで下さっているので、サウンドの素晴らしさはお聴きの通り。
 ここでは簡単に収録曲の解説をしておきたい。山田の時間を割いてもらい、インタヴューした ものを、筆者がまとめる形をとらせていただいた。

M1 Bow-Wow (山田玲)
 山田がギターで作曲したナンバー。一緒に生活している犬がギター嫌いだそうで、ギターを弾いている間中吠えていたと言う。その間に出来たそうだ。「ラテンとゴスペルを混ぜたグルーヴをもった曲です。このクインテットの存在が、イメージを与えてくれ、曲を書かせてくれるんです」。(山田談)
M2 I Love You (コール・ポーター)
 名作詞作曲家、コール・ポーターが1943年にミュージカル“Mexican Hoyride”のために書き下ろした。2管の楽しさが溢れ、山田のドラムソロの面白さ、その音色もまた精巧に録音された。さすがスタジオD e d eである。また渡辺翔太のピアノが強い印象を残し、フレーズのユニークさ、展開のたくまぬ巧みな手法にいつも驚嘆する。山田も「誰にも似ていない、どの世界にもいないピアニスト」と高く評価した。
M3 On Misty Night (タッド・ダメロン)
 ピアニスト、また作編曲家としてバップ以降に活躍したタッド・ダメロンの代表曲の一つ。この“ケジメ”はバラードもいいのが特徴だ。素晴らしい2フロントに関して、山田は次のように語った。「広瀬未来さん(tp)は日本一だと思います。この”ケジメ“は最初にカルテットで演奏したのが2017年でしたが、高橋知道さん(ts)が加入してクインテットになったのが2018年。彼は”ザ・テナーマン“と呼びたいくらい、テナーで歌うことが出来る。この2人は抜群の相性で、それも素晴らしさの一要素です」
M4 Mog (倉谷明)
 名古屋市にある”Mr / Kenny’s”のオーナーであり、自身もジャズ・ギタリストである倉谷”Kenny”明氏の作曲。山田が尊敬する人の一人であり、この曲も大好きだと語った。このテイクでは、冒頭の古木佳祐の演奏に惹きつけられた。何と詩情に満ちた演奏だろうか。また、テナーの高橋の語りかけ、広瀬のトランペットでの激しい告白からも耳が離せない。自在に変化しながら、それを目立たせない山田のドラミングも傾聴したい。
M5 Stable Mates (ベニー・ゴルソン)
 リラックスしたバンドの余裕が、聴くこちらを楽しくさせる。「何もアレンジせず、各個人がジャムみたいに楽しもうと臨んだ曲です」(山田談)広瀬の朗々と遠くに届くトランペットが素晴らしい。また、こういうジャズ・スタンダードでも光る古木のベースに魅せられる。10 代からジャンルを超えて活躍してきたから、ベテランの域に達している演奏だ。山田も「グルーヴとスウィングを併せ持つ演奏家。実はドラムもピアノも上手いんです」と語った。
M6 Flow We Roll (広瀬未来)
 広瀬未来(tp)がこのバンドのために書き下ろしたナンバーだ。つい最近、大西順子がプロデュースするビッグバンド The Orchestra で広瀬作曲の組曲を聴いたが、見せる景色の変化が見事でその作・編曲力に圧倒された。ここでもパワフルな曲想を、メンバーが一丸となった演奏で届けた。「このバンドの看板曲で、これが“オレらのケジメのつけ方” という、“ケジメ”らしい曲です」(山田談)リーダーの全身全霊のソロ、お礼の後に、ゆっくり余韻を楽しんでいただきたい。素敵なサプライズがあるかもしれない。

 「皆が楽しめる音楽をやりたい」とリーダーが語り、次のように続けた。「お客さんは人間を見にくる人もいる。どうショーとして成立させるか、全ての要素に全力をかけたいと思っています」
 山田玲と“ケジメ・コレクティヴ”が本作でスタートを切ったわけだが、こうして聴いてみると今の日本に、あるいは東京に足りなかったのは“ケジメ・コレクティヴ”のスピリットなのかもしれない。これからも、その行く道を楽しみにしたい。