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デイリーレポート

5/26(木)ライブレポート前編 by中西光雄

Kyoko

2022年05月29日 日曜日

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▶昨年の秋、日本のジャズの聖地BODY&SOULが、南青山から渋谷公園通りに移転し、新装開店したことは記憶に新しい。関京子ママの80歳での新たな挑戦に、ジャズミュージシャンもそのファンも心からの敬意と拍手とを贈ったが、このライブハウスにとりわけ縁の深い小曽根真は【2Days スペシャル】を企画出演し開店に花を添えたのだった。その2日目は、リズムセクションにタイトで気心の知れたベース中村健吾、ドラム高橋信之介を配置、ホーンセクションにトランペット中川喜弘・トロンボーン中川英一郎の親子を迎え、加えて90歳を超えたクラリネットのレジェンド北村英治をスペシャルゲストとしてフィーチャーした《デキシーランドジャズ特集》。
この時のえもいわれぬ親密なスイング感、一体感はその場にいた私にとっては忘れがたいが、それはアーティストにとっても同じことだったようで、小曽根は今年の2月に同じメンバーでライブレコーディングセッションを企画した。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延のためやむなく中止。この夜は満を持してのその振替公演である。中川喜弘は5月4日に80歳の誕生日を迎えたばかり。北村英治は93歳。ジャズの歴史を生きてきたレジェンドたちと、今ジャズ界で最も勢いがあるフロントラインとがどのような掛け合い・丁々発止の対話を繰り広げるのか楽しみでならない。
▶今回のライブは、ベストテイクがライブ盤としてリリースされる。なので、レポートも演奏のことについては深く触れず、もうひとつのスイング、ミュージシャンたちのインスピレーティブなトークを中心にお伝えしたい。
▶バンドメンバーがステージにあがり、最初に小曽根さんからのライブ延期の経緯の説明とメンバー紹介があったあと、1曲目は小曽根さんが大好きだという“Struttin’ with Some BBQ”。中村健吾さんのベースソロが冴える。次はドラムのソロという具合。メンバーひとりひとりがそれぞれのタレントを惜しみなく出し合い、最高のディキシーランドを作り上げる。心は躍るばかりだ。

2曲目は、“Mississippi Rag”。曲名がコールされてから、演奏の段取りを打ち合わせする中川親子。「録音だけじゃなくビデオもとっておいたほうがよかったですね」と小曽根さん。オーディエンスからも笑い声と歓声が……。クラブが揺るぎなく一体となって動いている。演奏後、小曽根さんが「僕と英ちゃんは、どちらも父親がディキシーランドをやっていて、そこからジャズに魅了されて入ったということで、はじめから似てるねと言ってたんです。僕の場合は、父親が芦屋の仏教会館というところがあって、なぜかそこでディキシーランドの練習をやっていたんですね。チーン(爆笑)。そこでやっていたディキシーがあまりにも楽しくてジャズにはいっちゃんたんですけれど、物心ついてからオヤジが教えてくれた曲があります。その“Do You Know What It Means to Miss New Orleans?”を次に一緒に演奏します。オヤジ、どっかこのへんに来てるんじゃないかと思います。自分で弾きたかっただろうね。ざまあみろ!(大爆笑)」。

3曲目は、北村さんの美しいクラリネットをフィーチャーしたスローなこの曲。父小曽根実さんは確かにそこにいた。北村さん「マー坊が年寄りを大事にするから(爆笑)、うれしいなあと思ってね。こういうところで一緒にできるって幸せだなあって思う。オレもね、まだまだ吹けるんじゃないかなあと思ってるんですよ。オレけっこういい歳してるんだよね。93を過ぎたからね(一同驚く)。だからさすがに無理はしないんです。前は昼間ゴルフ行って、夜ライブやってなんて、しょっちゅうやってたんですけど、この歳になるとやっぱりきついんで……。あれは身体に悪い。一日一回のイベントがいいんじゃないかと……(爆笑)。でもおかげでね、また立って吹いていられるんですよ。年をとるとみんな座りたがるんだけれどね。僕は立つのは平気……小学校のころから立つの平気なんですよ(爆笑)。でも仲間がいいっていうのはうれしいですよね。みんながこうやってつきあってくれる。喜弘や英二郎なんかもいつもつきあってくれて、そうすると僕が年寄りだっていう気がなくなるんだよね。それがいいみたい。そして飯をたくさん食べる。」「北さん、ほんとにいっぱい食べるんですよ」と小曽根さん。「そうだね……ガツガツしてるねえ……(笑)。お父さんと仲良くしていたおかげでね。マー坊はほんとに立派になって、最高のアーティストになって、でも、年寄りをこうやって使ってくれる(爆笑)。うれしいなあと思ってね。それで、ちょいちょい仕事をいただけるんで、ほんとにありがたいなあと(爆笑)。いいんですか?僕がこんなにしゃべってて……。同窓会に行くとね、みんなステッキついてるんだよね。僕が『お前どっか悪いの?』と聞いたら『おまえの方がおかしいんだ』って(爆笑)。ともかく仲間がいいっていうのは最高の幸せですね。人間というのはいろいろな運がついていると思うんですよね。僕は、いい運をもらって生きてるんじゃないかなあと思うんです。仲間がいいし、後輩がいい。そしてこんな最高のアーティストと一緒に演奏できるなんて……ジジイを使ってくれるなんて(爆笑)ものすごくありがたいことです(爆笑)。」「そうなんです、本当にお元気で、去年10月にやったときは、北村さんはもう90歳を過ぎていらっしゃって、英ちゃんと相談して、最初僕らがやって、後半の3曲から4曲くらいお願いしようと。それを北村さんが『いいよ』と言ってくださったので、ここでリハーサルやったんですよ。3曲リハーサルやって、そのあと僕らが違うバンドでやろうとしたら、北村さんが『僕はこれ吹かなくていいの?吹かなくていいの?』(爆笑)って。『英ちゃん、北さんきっともっと吹きたかったんだよ』(爆笑)。それで今回は遠慮なく全部吹いてもらっているんです」(拍手)と小曽根さん。会話がスイングするとはこのことである。

4曲目” Blue My Naughty Sweetie Gives to Me “
「次にやる曲は、古いディキシーランドの曲です(ディキシーはみんな古いんですが…)。僕が父親に連れられて芦屋の仏教会館に行ってたころ覚えた曲なんですが、今回はハートウォーマーズというバンドのオリジナルを使わせてもらいます。実は前回ブラジルに行ったときに、サンパウロのコンサート会場に白髪の日本人の方がいらっしゃって、その方に『真くんでしょ?』って言われて、『はい』って応えたら、『僕のことわからないでしょう?』って……その方はオヤジが大学時代にやってたバンド『ハートウォーマーズ』のリーダーの右近雅夫さんというトランペッターの方だったんです。若いときにブラジルに移民されて何十年もブラジルで生活されていたんですが、その右近さんの写真をiPhoneで撮ってオヤジに送ったら、オヤジは泣きながら電話をかけてきました。結局オヤジは右近さんより先に天国にいっちゃいましたけど……。『おしゃれなあの娘が』『おしゃれなあの娘が』『おしゃれなあの娘がくれた』というブルースです。北さんは、何人ぐらいの人にそう言ったんですかね?あとで楽屋で伺いたいと思います(笑)。」楽譜をのぞき込みながら、中川喜弘さんが「この曲は僕から?」。「そうですよ。あのお……この曲はちゃんとリハーサルしたんですけどね(笑)。リハーサルどおりには全然いかないという……最高ですね!よろしいでしょうか?」と小曽根さん。もちろん喜弘さんのトランペットがリードしてスイングする底抜けに楽しくすばらしい演奏だった。

5曲目は遠くウクライナに思いを馳せつつヘンリー・マンシーニの名曲「『ひまわり』のラブテーマ」。この曲も北村さんのクラリネットがフィーチャーされる。高橋信之介さんのブラシワークが小曽根さんのピアノと絡み合いまことに美しい。「北さんがこの曲をやってらっしゃったというのは意外でしたね」と小曽根さん。「だいぶ以前に映画を観て、せつない映画だなあと思ったんですけれども、ヘンリー・マンシーニ・オーケストラが日本に来たときに僕を呼んでくれたんですよ。コンサートマスターのディック・デニスというバイオリニストが英治をフィーチャーしたんだけど『ひまわり』やりたいんだけど『知ってる?』というから、僕が『知ってるよ』『だいたい知ってるよ』(爆笑)って言ったら、ディック・デニスに『今度は英治をフィーチャーして「サンフラワー」です』っていきなりステージの上で言われちゃったんです。僕は真っ青になって吹いたらうまく吹けたの(爆笑)それ以来とても好きになった曲です』。

6曲目は“Limehouse Blues”。
曲名のコールがあってから、中川喜弘さんが楽譜を確認するのを英二郎さんが横からサポート。北村さんが「英二郎は面倒見がいいね!年寄りの……」。すかさず小曽根さんが「ひょっとすると北さんが、このバンドの中で一番若いかもしれないですね。今回のレコーディングは僕が演奏を残したくてやってるんです。これ僕のためですから。北村さんはあと3~40年大丈夫そうです。僕はあと10年くらいかも……(笑)。でも受けすぎです……あとでじっくり楽屋で話しましょう(爆笑)。」シンバルのクラッシュ音ではじまりトランペットがメロディをリードして、このブルースの名曲は実に若々しく現代に甦った。トランペットとトロンボーンの掛け合いが終わるとクラリネットが歌い出すという趣向である。

打って変わって、7曲目は小曽根さんと英二郎さんのデュエットで「G線上のアリア」。曲名が出てこない小曽根さん。笑う北村さん。「もう歳だといったら北村さんに笑われますね。僕ももう還暦ですと北村さんに言ったら、北村さん『還暦はまだ育ち盛りだよ』って(爆笑)。でもふつうトロンボーンでやる曲じゃないよね」。英二郎さんの正確で息の長い音が小曽根さんのピアノと対話をはじめる。ふたりの演奏で一瞬にしてクラシック音楽の音場となるから不思議だ。美しいエンディングのあと、「ディキシーランドやってたんですけどね。でもこの曲が、クラシックのディキシーですから」と小曽根さん。「でもこのプログラムってひどいよね。あれだけディキシーランドをバンバン吹いたあとで、このメロディをトロンボーンで吹くって尋常じゃないんですね。だから、サイボーグとかアンドロイドとか呼ばれるんんですよ(爆笑)。何を書いてもバリバリ吹いてくれるんです、この方は。でも一回ね、No Name Horsesで”ROAD”という曲を書いて、40分くらいの組曲なんですけど、その中で、伴奏で(僕らは白玉って言うんですけれども)静かな長い音を吹いて、そのあとにきれいなメロディをフレンチホルンのようにって書いてあるんですよ。僕は小さい音を吹いているのは平気だと思ったんですけれども、実は小さい音で長い音を吹くのが一番きついらしくて、英ちゃんがはじめて『小曽根さん、ここ、僕じゃなくてセカンドトロンボーンの方に吹いてもらって、その後のメロディ吹きたいんで、休んでていいですか?』とはじめて英ちゃんがリクエストを出したんですよ。僕はきついんだろうなあと思って、リハーサル終わってから英ちゃんのところへ行って『ごめんね。ほんとうにごめんね!』と言ったら、『ほんとに遠慮ないよね』と言われて(爆笑)。それからは心してトロンボーンのパートを書いています。そういいながら、今日はディキシーのあとにこの曲を吹かせてしまいました。」(爆笑)。笑いながらであるが、天才的なミュージシャンたちの努力と技倆に震撼した瞬間であった。

ファーストセットの最終曲は底抜けに楽しい“Won’t You Come Home, Bill Baily”。信之介さんのソロが冒頭にフィーチャーされる。「みんなコーヒー飲みに行こう!」小曽根さんはまたオーディエンスを笑わせてこの曲ははじまった。独創的でタイトな信之介さんのドラムワークがすばらしい。

アンコールの前に、小曽根さんは、93歳の北村英治さん、80歳になったばかりの中川喜弘さん、そして80歳の関京子ママへの感謝とリスペクトを述べ、このライブを満員にしたオーディエンスに心からの感謝を捧げた。アンコールは、”On The Sunny Side of The Street”。中川喜弘さんの指サインでコードはC、テンポは「ふつう」。「おとうさん、だんだん素になってません?」と小曽根さん。ミュージシャンもオーディエンスもスタッフも、全員の笑顔の中でファーストセットは大団円を迎えたのである。
▶Set List 1st set
01 Struttin’ with Some BBQ
02 Mississippi Rag
03 Do You Know What It Means to Miss New Orleans?
04 Blue My Naughty Sweetie Gives to Me
05 Love Theme from “Sunflower” (Henry Mancini)
06 Limehouse Blues
07 Air on the G strings (Bach)
08 Won’t You Come Home, Bill Baily
Encore
09 On The Sunny Side of The Street”
★後編(2nd.set)は執筆中、追って掲載します。

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